LOGIN婚約者の仲間友紀が怪しい行動を取っていることを知ったのは、従兄の茂さんからの連絡がそもそもの始まりで、その後いろいろ相談に乗ってもらってる。 それで友紀の結婚発言のことも相談した。「本当に分からないのか? 鈍いんだよお前! そりゃあ、今一緒にいる相手と上手くいかなくなったからに決まってるだろうよ。 きっとあれだな、1年前に本当のことをお前に言わなかったってことは、お前はその男と上手くいかなかった場合の保険だったんだよ。 ほんとにタチの悪い小賢《こざか》しい小娘だよ。 結婚はよく考えて決めろよ。 俺ならすっぱりやめるけどな」と従兄から辛口のコメントをもらった。 従兄と友紀も挨拶する程度には顔なじみで、ちょうど1年前の今頃、俺は従兄から妙な話を聞かされていた。 ── 1年前 ──「なぁ、達彦、友紀との結婚はどうなってんの?」「あぁそれね、友紀の希望で1年後に延びた」「ふ~ん! お前たちちょっと大変だったんだな」 妙なことを言うなぁと思った。 たいへん? なにが?「友紀ちゃんもお前も残念だったな」「何が? よくわからんけど」「友紀ちゃんから何も報告受けてないのか? 」「報告? え~と、結婚を延ばしてほしいっていうのは聞いたけど。 他に何かあったっけ? ふむ」「ふむって……ふむって、お前」「俺たまたま休みの日で、暇だから昼休み碁を打ちに医局に出向いたんだわ。 そしたらちょぅど病院前でタクシーから降りてくる友紀ちゃん見たのよ」「へぇ~」「婚約者が病院ってお前何か気がつかないのか?」「ぜんぜん! 」「まっいいわ。 何気に気になって受付に声かけたら受診先、産婦人科だった。 で、その日の外来が俺のダチでさ、身内がお世話になったみたいだけどって診断内容聞いたわけ」「そういうの確か、だめでしょ? メッ!」 「だめでしょって……おまっ……友紀ちゃん流産してたんだよ? なんでお前そんなに平静なんだよぉ……ってか、知らされてなかったんならしょうがないけどな。 あれか、友紀ちゃん赤ちゃんが上手く育たなかったから、言いづらかったんだな、きっと。 健気《けなげ》だねぇ~」
何なのあの私を馬鹿にしたような態度。 私、あんたが思うほど馬鹿じゃないんだから。 バァ~カ! こんなこともあろうかと婚約者の達彦ちゃんには、もう少し仕事したいからって婚約延期してもらってたのぉ──。 婚約破棄なんてしてませんから。 あんたみたいに何度もお金をせびってこられたら、いくらボンヤリさんの私でもおかしいって思うわよ。 達彦ちゃんを保険にとっといて良かった。 心の底からそう思った。 もともと達彦ちゃんと結婚するはずだったんだし、少し伸びただけのこと。 籍も汚れてないみたいだし、私にしたら万々歳だよ。 私はまだ若い。 やり直しなんていつでもできんのよ。 妻から捨てられたあんたとは違うんだよ。 私はそう毒づきながら捨てられた鬱憤を晴らし、その足で実家へと向かった。 ◇ ◇ ◇ ◇ 実家に戻ってからしばらくして落ち着いた頃、これまでも怪しまれないほどには会ったり連絡を取ったりしていた達彦ちゃんに、会ってぼちぼち結婚の話も進めたいなぁ~ってことで電話してみた。 喜び勇んで駈け付けてくれると思ったのに、達彦ちゃんの返事はそっけなかった。 2か月前に会った時は私に会うことが決まると、すごく喜んでくれていたのに。 一体どうしたのだろう? ◇ ◇ ◇ ◇ 本当なら、約1年ほど前に結婚していたかもしれない幼友だちの仲間友紀という婚約者がいる。 同い年で若いこともあって婚約期間を1年延ばしてほしいとお願いされそれをのんだ。 俺としては一日でも早く結婚したかったんだけどね。 すっごい好きな相手で1mmも嫌われたくなくて、物分かりのいい顔をして了承したんだ。 それなのに友紀は年上のそれも既婚者とこの1年同棲してた。 一連の流れて興信所に頼んでた結果が、1週間ほど前に出たところだった。 だから突然昨日結婚したい、と結婚のことを仄めかす発言があってびっくりした。 今暮らしてる男のことは? どうするつもりなんだ?
「えっ、私できる限りのことしてきたつもりよ。 お店のために何百万円って払ってきたわ。 それなのにそんなのおかしいわよ。 じゃあって……じゃあって何なの? 」「おかしくてもおかしくなくても、お終いなんだわぁ~」「ふざけないでっ! 私と結婚したのはお金のためだったの? 」「そうだよっ、他に何があんだよ」「……」「勝手に離婚なんてできないんだから、バカじゃないの。 それに離婚、離婚って離婚したら困んのあんたなんだからね。 私から借りたお金全部請求させてもらうしぃ」「あっれえ~っ、私があなたからお金借りたっていう証明書……借用書でもあるんですかっ? 」「……」「そういうのないと、請求できないんでございますのよ。 馬鹿は騙しやすいわな。ハハハっ」「弁護士つけて、なんとかするわよ。見てなさい」「おぅおぅ、やってみろよ。 弁護士でも槍でも鉄砲でも持ってこいってぇ~の。 そもそも俺とお前は結婚してないんだから、どうにもならないんだよ」「結婚してないって、どういうこと? 」「だ・か・ら、そいうこと。 婚姻届出してませぇ~んでした」「騙したのねぇ~。死ね」「人を呪うんじゃなくて自分のオツムの緩さを呪いな。 よく考えてみろよ。 お前のせいで家庭を失くした俺が何でお前とホイホイ結婚するんだよって話。 こんな話誰にもしないほうがいいぞ! 自分がいかに馬鹿かっていうのを証明するようなもんだからな。 お前の親が何か文句言ってきたら、お前が俺にしたことで反撃させてもらうから。 人の家庭壊したヤツがそう簡単に幸せになれると思うなよ」「酷い、ひどい……人でなしあんたなんて、天罰が下るわよ」 今頃何言ってんだか。 もうとっくに天罰くだってんだよ。 下したの、てめぇじゃないか!
彼女には婚姻届を出したと言ってあるが、実はそんなもの出しはしなかった。 そう、最初から彼女と結婚するつもりなどさらさらなかったから。 仲間との結婚は、俺から妻と子どもを奪った彼女に復讐してやろうと考えての計画だったのだ。 復讐をコレ幸いと、実家が裕福らしい仲間友紀から店が出している赤字補填のためにちょこちょこ金を出させた。 幼馴染との婚約を破棄したのによく親がホイホイと金を出してくれるものだと思っていたが、どうもそうではなかったらしい。 俺の勝手な思い込みだったってわけだ。 成人した時に親からまとまった額を生前贈与で貰ってた金を、友紀が俺のために融通してくれてたようだ。 何度目かにそう聞いた。 何度目かの俺からの金の無心に、もうこれ以上は応えられなくなりそうで、とうとう、真実を語ったのだろう。 そんなもん、語られても語られなくても俺にとっちゃぁどうでもいいいことなんだがな。 金さえ、引っ張れればさ。 友紀と暮らすようになってから1年が経っていた。 この間に俺が彼女から引っ張った額は8桁に近付いていた。 正直こんなに引き出せるとは思ってなかった。 時を同じくして…… 1年前の今頃彼女は流産していたのだが、その心の傷も癒えたのか『そろそろ子供が欲しいね』と言うようになった。 その彼女の言葉が合言葉のように俺の最後の計画を、後押しすることとなった。 子供が欲しいなどと、ふざけた寝言を望まなければ もう少しやさしい良い夫を演じてやっても良かったのに。 欲張りな女は嫌いだ! これを最後にと、駄目元で再度金を用意できないか? と訊いた俺に……『店の赤字補填には親からの生前贈与を当てていたがそれも底をついた今、婚約破棄のことがあるから親には借りることができないの。 だから店へ投入するお金は自分にはもう支払えない』と友紀が悲しそうに言った日、俺は最大級の爆弾を落としてやった。 ◇ ◇ ◇ ◇「じゃあ、俺たちの関係もこれでお終いだな」
気がつくと俺はとっさに有り得ない選択肢をしていた。 それは俺の憎悪から出たものだ。 果歩と娘の碧を見失なってから俺の経験した苦悩、孤独感罪悪感、反省、いろいろな気持ちで過ごした1か月間。 そんないろいろな感情がない交ぜになった気持ち全部が、仲間からの予想外の言葉で、激しい憎悪となってひとつの大きな塊へと変化していった。 いざこざはあったけれど、それでも妻と子は俺にとってずっと一緒に暮らしてきた大切な家族なんだよ。 その家族と引き離した女を許せるかよ。 俺は鬼になってやる、そう決心した。 ◇ ◇ ◇ ◇ 1週間もしないうちに仲間友紀は康文の家に転がりこんだ。 仲間友紀は次の妊婦健診でお腹の中の子の心音が聞こえてないと言われて帰って来た。 念のため、更に1週間後に心音の確認を取ってもらったのだが、やはり心音は聞こえず稽留流産と診断されたのだった。 そして数日後の予約を取りつけ、手術を受けた。 元々妊娠が分かった時、店長の深山とは切れていて中絶を決めていたのだ。 そのような事情もあり、特別悲しいなどというような気持ちも沸いてはこなかった。*『子供なんてすぐできンじゃん』と思ったくらいで。 授かった子に対して全く執着もなかった仲間は、よりを戻し同棲を始めた深山に淡々と流産してしまったことを伝えただけ。 大したことと考えてなかったので詳しい説明は省き、ただ『駄目だった、流産しちゃったぁ~』と、話しただけだった。 少し出血があったものの、健診で医師から教えられて分かったくらいで、仲間自身には痛みもなく、あれよあれよという流れで、数日間で妊婦ではなくなったのだった。 嘘か誠か、結局子供は流産してしまったということらしい。 仲間がどこまて゛本当の話をしているのか分からない。 結婚をすると言っているのだからわざと流産っていうのは考えられない。 考えられるとするなら、妊娠そのものが眉唾だっとしか言いようがない……。 病院を聞いてわざわざ真実を確めに行くようなことはしなかった。 そこは俺にとって重要なことではなかったからだ。 逆に本当に出産となっていたら、ちゃんと調べただろうと思う。 騙されることのないように。 婚約を破棄するとなると、実の親ともひと悶着なしには済まないだろ
「お前が原因だったんだなぁ、参った。 やってくれたな! 果歩は居なくなっちまったよ。 娘連れて家を出て行った。 あんまり突然のことで原因がわからなくてずっと悩んでたってのにぃ、お・ま・えが原因だったとはな」 続きを話そうとした俺の言葉を遮り、嬉し気に仲間が話を引き取った。「奥さん、私の話なんて信じないって言ってたのにぃ。 そっかぁ~、家出しちゃってたんだぁ。 やっぱり私に虚勢はってただけなんだ、ハハッ」「どうして果歩にそんな話をしたんだ? 話す必要なんかなかっただろう? 」「だって私たちが仲良くしてたの知っててもあなたの側から離れようとしないから、何かムカついちゃって」「お前、頭大丈夫? だいじょうぶですか? 仲良くって、その理由はちゃんちゃらおかしいぞ。 俺たちが別れた後に言いに行ってるじゃないか。 俺に対する腹いせを妻に向けるなんて最低なヤツだなお前」 俺はこんなに自己中で性格の悪い女に夢中になってたっていうのか。 仲間のあまりの言いように最低なヤツだなと言ったあと、言葉が続かなかった。 ……と、急に妻のことが気になりこのまま仲間との無為なだけの遣り取りをする時間も惜しくなり、サインをして適当な金を渡した。 果歩を探しに行かないと……と思った。 そう思ったけど、俺は行動に移さなかった。 だって今まで出来る限りのことはやりつくしていたから。 ジタバタしてもおいそれとは見付かるまい。 落ち着けぇ~、そしてやるべきことを遂行しろ! ◇ ◇ ◇ ◇ 俺は言った。「最低なヤツだけど、俺の子供が出できたんだから……しようがないなっ。 果歩も出てっていなくなったし結婚しよか、俺たち! 」「えぇーっ、ほんとに? 」* 単純な仲間は、俺と結婚できることに泣いて喜んだ。 俺と結婚できるのなら、婚約者とはすぐに婚約破棄するとも言った。 破棄するとどんだけお金が飛ぶのやら俺には関係ねぇ。 黙って見てるだけだな!







